最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)93号 判決 1960年3月11日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第五点について。
使用者が労働基準法二〇条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の三〇日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであつて、本件解雇の通知は三〇日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。(昭和二四年(れ)第三九号、同二五年七月一九日大法廷判決、集四巻八号九五頁は労働者の暴行が原因で、即ち労働者の責に帰すべき事由により就業規則に基いて解雇された案件に関するものであつて、当判決は右大法廷の判決の趣旨に抵触するものではない。)所論は独自の見解に立脚するものであつて採用することはできない。
同第九点について。
労働基準法一一四条の附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによつて、初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基準法二〇条の違反があつても、既に予告手当に相当する金額の支払を完了し使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による附加金請求の申立をすることができないものと解すべきである。これと同旨に出た原判決は正当であつて論旨は理由がない。その余の論旨は原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背を主張するものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)